ここに二冊の新書がある。同じ著者による同名の本で、タイトルは『消費者の権利』。2009年に亡くなられた故正田彬教授の遺著である。旧版が刊行されたのは、1972年(昭和47年)のことで、岩波新書が緑版であった時代だ。新版の刊行は、2010年(平成22年)。岩波新書は新赤版となっていた。この二冊は、実に40年の時を隔てて出版された。
わたしは、ここ一ヶ月ほど、この二冊をやや丁寧に読みなおしている。というのも、ある消費者団体が主催する勉強会で、この本を取り上げることになり、ぜひ縁のある人にこの本(新版)の紹介とコメントをしてほしいとの依頼を受けたからだ。「消費者法ブックカフェ」という名の、このささやかな集まりは、消費者問題や消費者法に関わる本を読んで、それを手がかりに互いの問題意識を深めていこうというもので、なかなか興味深い試みである。
たしかに、「消費者の権利」ということばは、あまり聞かなくなった。学生に聞いても、「消費者」ということばは知っていても、「消費者の権利」には、いまいち反応がない。「消費者基本法」の中には、たしかに位置づけられている。このことばが話題とならないくらい、この権利は、わが国において当たり前のものとして定着したといえるのだろうか。
40年前、「消費者の権利」という価値を、現代社会における消費者の地位を前提に法的権利として組み上げていくことが求められた。そして、国や地方自治体は、こうした視点を拠り所にして消費者行政を進めていくべきものとされた。現在、国が制定する法律や地方自治体の条例にも「消費者の権利」を文言としては見出すことができる。だが、輸入・国産を問わず流通した事故米穀の問題、輸入冷凍餃子の中毒事件、暖房機やガス瞬間湯沸し器の一酸化炭素中毒、繰り返される食品偽装表示等々、消費生活をめぐる問題はきわめて数多く多岐にわたる。そして、商品やサービスの高度化にしたがい、複雑になっていく。
40年を経たいま、現在の経済社会のなかで、「消費者の権利」をどのように捉え、どう位置づけていくべきなのだろうか。また、複雑化する消費者問題に「消費者の権利」という立場からどのようなアプローチが可能なのか。新旧両版を読み解いていくことで、40年目の「消費者の権利」を考える素材が提供できればと思っている。
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