十年ほど前、『著作物流通と独占禁止法』という出版物(書籍・雑誌)や新聞などの定価販売(著作物再販制度)に関する本を書いたからかもしれません。ここにきて、いくつかのルートからこの制度に関するさまざまな問い合わせをいただきます。もちろん、これまでにもこの制度に関する問い合わせが無かったわけではありません。でも、多くは、その対象となっている商品を取り扱っている業界、つまり出版業界からのものが中心でした。
たとえば、本などを購入したときに提供されるポイント・カードが値引きと同視しうるとすれば、それは定価(出版社が設定した値段)での取引を義務づけている契約に違反するのではないか?という疑問が寄せられることもありました。また、著作物再販制度の対象となっている商品(書籍・雑誌・新聞)に同制度の対象とはなっていない商品を付けて販売する場合には定価で販売することができるのか?といった疑問もあったと思います。
いずれも、なかなかおもしろい論点です。これらが、現在、販売の現場ではどう扱われているかご存じですか?まず、ポイント・カードからみていきましょう。
この前、わたしがしばしば利用している書店の一つ、丸善や青山ブックセンターに立ち寄ったら、両方の書店でポイント・カードの配布を始めたみたいです。先日、数冊ほど本を購入したら、ポイント・カードを手渡されました。
本は著作物再販制度のためにどこに行っても同じ値段ですから、こうした「おまけ」や「サービス」が書店を選ぶきっかけになるかもしれません。また、書店の側からも、値段では競争できませんので、顧客に繰り返し利用してもらう意味でも、ポイント・カードは有力な競争手段となります。
ただ、書店などで提供されるポイント・カードは、他業種に比べ、とても低い還元率です。たしか、一から二パーセント程度。たとえば、一〇〇〇円の新書や文庫を買ったとしても、一〇円から二〇円程度のポイントが蓄積されるにすぎません。
ここで考えなければならないのは、ポイント・カードで蓄積されるポイントとはいったい何なのかということです。買ったときに、ポイントが蓄積されるという側面に着目すれば、それは「景品類」ということになるでしょう。また、取引の際に、割引が行われるということに着目すれば、それは「値引き」ということになります。通常の商品であれば、それが「景品類」に該当すれば「不当景品類及び不当表示防止法」の規律に服し、その範囲内で景品類の提供は認められます。「値引き」ということであれば(不当廉売に該当しない限り)原則自由です。
他方、著作物再販制度の対象商品においては、事情が異なります。「景品類」に関する規律は通常の商品と同様ですが、「値引き」ということになれば、先にも指摘したように出版社との間で書店が結ぶ「再販契約」違反ということになります。
みなさんは、どうお考えになりますか?日頃、使っているポイント・カードは、「景品類」なのでしょうか「値引き」なのでしょうか?(つづく)
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