久しぶりに読みごたえのある書物を読んだ気がする。400ページにわずかに届かぬ程度で、取り立ててページ数が多いわけでもない。ただ、場所によっては、日頃の読書の領域から外れることもあり、そんな読み馴れない箇所に出会うと、都度、行きつ戻りつする。そして、読み手は、これを繰り返しながら、味読する。
何らかのテーマに沿った一冊の著書でありながら、部分によって読みの緩急が伴うのは、その扱う内容が広範であり、これに取り組む著者の意欲と該博に出会う場合に限られる。
本書が誘うのは、日本語の詩歌をめぐる通史的な詩論。これまで時代を区切ったものや、近・現代のみを扱う批評は少なくなかった。が、神代から現代までを通貫するものはいまだかつてなく、その気宇に驚く。歌謡、和歌、連歌、俳諧、漢詩、源氏物語に平家物語、猿楽、能、浄瑠璃、短歌、俳句、近現代詩を素材に、実作者の経験と直感、そして、湧き出るユニークな発想とイメージで語り描く。
曰く、わが国の詩歌の歴史は、「からうた」と「やまとうた」の恋着と反撥の歴史だ。これは、母胎たるユーラシア大陸から切り離された列島弧として存在するわが国土に由来するのだ、と。
本書は、3年にわたり大阪芸術大学文芸学科での講義がもとになっている。その後、岩波書店の読書誌『図書』に連載された。何事も、分かりやすい方がいいという時代である。しかし、大学の講義は、少し背伸びしてついていくくらいの方がいい。ちょうどこの本は、ときにわたしに少しの背伸びを要求するものだった。
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