2012年5月7日月曜日

【柳広司・『ジョーカー・ゲーム』シリーズ】


珍しくゆっくり過ごした土曜の午前、滅多に見ないテレビのチャンネルを合わせてみたら、目に入ってきたのが「王様のブランチ」の書評!?コーナー。かつて、筑摩の松田哲夫氏のコーナーだったアレである。そこでは、たまたま「ジョーカー・ゲーム」シリーズ最新刊で第三作目・『パラダイス・ロスト』が紹介されていた。前々から、気にはなっていた。陰影が強調され、繊細なラインに極彩色が施された表紙のイラスト。そして、旧陸軍の軍人が描かれているようだが、何か別物のようにも見える印象的なカバー。気にはなっていても、読み慣れないこの手のジャンルの本は、ややハードルが高かった。だが、うまい具合に谷原章介がこれを下げてくれたのだった。
電車での移動が、一日の大半を占めてしまいそうな日。午前7時から開いている最寄駅のエキナカの本屋さんで、シリーズ第一作『ジョーカー・ゲーム』の文庫版の平積みを見て、即購入。『パラダイス・ロスト』の刊行とあわせて、第一作目が文庫化されたようだ。
作家で元外務省主任分析官の佐藤優に言わせると「柳広司氏は、日本の小説にインテリジェント・ミステリーという新分野を開拓した」のだそうだ。007シリーズやミッション・インポッシブルで見慣れたハードなアクションはほとんどない。むしろ、これと全く反対の、静かに展開するカードゲームのようなストーリー。主人公であるはずの「魔王」結城中佐は、物語の前面にはほとんど現れず、常に背後にいるのもユニークで不気味。
結局、数日のうちに、シリーズ第二作『ダブル・ジョーカー』(2009年)と第三作『パラダイス・ロスト』(2012年)にも手を出し、あっという間に読んでしまった。「インテリジェント・ミステリー」という、何よりも切り口の面白さが受けたものの、事件の謎解きが何となくもたついた感じのあった第一作に比べ、第二作・第三作は仕上がりもまとまりも小気味よく、定番の風格を獲得したといっていい。角川の文芸誌『野生時代』で新たな作品も掲載され始めたようである。果たして、ハードカバーが出版されるまで読むのをガマンできるかどうか。

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