先月末の話だが、『人文学と著作権問題』というタイトルの著書を中国関連書籍の出版社である好文出版から上梓した。単著ではない。「漢字文献情報処理研究会」が編集するかたちでの共著である。「漢字文献情報処理研究会」というのは、中国史や中国文学、中国語などを専攻する研究者の集まりで、特に東洋言語のデジタル化・漢字を中心にした文字のコード化に関心をもつグループである。これまで10年余りに及び、人文学の研究や教育に関する法律問題について、テーマを設定し、セミナー等で議論を深めてきた。本書の企画は、研究会発足から10年余りを経て、所期の目的を達成し、この会を解散させるに及び、これまでの検討の成果をまとめて、世に問おうというものであった。
わたし以外は、いずれも人文学分野の研究者。法律の専門家は一人であったということもあり、必然、本書全体の構成や内容にも深く関わることとなった。人文学(人文科学)とは、学問の一領域で、英語でいうところのヒューマニティーズ(humanities)である。つまり、人間の多様性に関わる学問、具体的には歴史学、哲学、言語学、文学、美学、考古学、音楽学といった学問分野があてはまる。
確かに、一見すると、これらいずれの学問分野も、法律学とはかかわりをもたなさそうである。しかし、彼らとの一連の議論を経て、これらの学問分野における研究や教育活動と法律学との間で見えてきたものがある。両者の接点である。
接点のひとつは、学問それ自体の共通性である。わたしは、ここで法律学というものが、人文学を基盤とした学問であることを改めて認識した。法における価値判断は哲学に通じ、言語で表現された法文の解釈は、言語学の素養を要すると同時に、文学や美学の批評(クリティーク)の手法に類似している。
いまひとつの接点は、研究・教育活動に付随して起こる問題との関連においてである。殊に、著作権との関わりに注目しておく必要がある。また、先月指摘したコンプライアンスとの関連でも、注意しておくべき点は多い。
本書は、主として後者に関する著作ではある。しかし、議論の過程で学んだのは、むしろ前者であったといってよいし、事実、これを踏まえている点、普通の法律の本とは一線を画しているユニークなものである。
だから、本書の英文タイトルを「Humanities meet Jurisprudence(人文学と法律学の出会い)」としたのである。
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