新橋駅のSL広場で折に触れ開催される古書市。わざわざ出かける必要がないので、いまでは神田の古書街よりもよっぽど身近な存在である。先日そこをブラついていて偶然見つけたのがこの本『政治わが道---藤山愛一郎回想録』。藤山さんの最後の著作で、確かに、この本の中でもご本人自ら「この『回想録』をもって、もうあまり過去は語らないことにしようかとも思っている」と書いている。
本書は、内容的には先の『私の履歴書』の続編。財界人を「卒業」し、政界に移った後の回想録である。岸信介の盟友として懇願され、財界から政界への華麗なる転身。外務大臣として取り組んだ安保改定とそれに先立つ外交交渉の緊張感。三度にわたる総裁選への挑戦と政治力学に翻弄され、影響力を徐々に失っていく藤山派の落日。失意を跳ね返すように取り組んだ日中友好。
「事実は小説よりも奇なり」というが、藤山さんの人生こそ、それに相応しい。
財界人のときは、20社以上の社長を務め、政界に入ってみると収入は20分の1になっていたという。自ら率いていた企業グループの株式や集めていた絵画の数々、白金にあった土地や邸宅などを派閥維持のために投じ、政界を引退するときには私財はほとんど残っていなかった。そんな自らを評し「絹のハンケチも泥にまみれたよ」と言ってのける、見事な「井戸塀」ぶり。
玄人筋からいえば、本書の記述が、踏み込みが足りないとか、もう一つの裏面があったのでは?と思わせる点もないわけではないようだ。だが、本書は、きっと藤山さんの率直な感想を綴ったものであり、その見たまま、感じたままを記したものなのだろうと思う。藤山さんは、そんな打算などとは無縁の人だった。もし、打算的に行動し、人の裏読みに長けた人ならば、このような散財を自ら買ってはしないはずだからである。
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