スマートフォン端末の「極端な値引き」は、端末というハードのみを取引対象としているとの理解に立てば、携帯電話会社がメーカーから買い入れたその端末を販売店に卸した際の仕入原価を割り込んだときに「廉売」となる。しかし、これに対する非難をそれほど聞いたことはない。もちろん、安売りは一見すると消費者のメリットにも適っているようにも見え、批判しにくいという側面はある。しかし、恒常的にこうしたビジネス慣行が「合法的」に続けられているということは、それ以外に理由があるはずだ。
その理由として二つが考えられる。一つは、その廉売行為が「不当」ではないこと、いま一つは、そもそも「廉売」ではないことである。廉売行為が非難の対象となるのは、前回も述べたとおり、市場独占を狙って、自らと競争関係にある相手を駆逐するために行うからである。だが、大手三社の携帯電話会社の競争の現状を見る限り、ある一社が市場独占を当該行為によって実現するような状況にあるとはいえず、三社相互に拮抗したかたちで競争が展開している。こうした事情を踏まえれば、現状、この市場に政府・公権力が介入する理由をこの点に見出すことは困難といえるかもしれない(もちろん、大手以外の小規模の携帯電話会社(しばしばMVNOという)は、大手三社によるこうした競争のせいで、事業活動の展開を難しくさせられている場合、「不当」な廉売という筋道もあり得る)。
他方、この行為はそもそも廉売行為といえるのかどうかという問題もある。少なくとも、大手の携帯電話会社のビジネスモデルは、スマートフォン端末本体だけを取引の対象とはせず、携帯電話会社が提供する回線契約と結びつける、いわばセット販売を行っている。二つの性質の異なる財ないしサービスが組み合わさると、廉売行為の評価の前提となる「原価」の捕捉が難しくなる。端末というハードの製造原価ではなく、仕入原価が問題となる本件では、端末単体の原価を捕捉することが比較的容易だが、回線契約というサービスの原価は容易には確定し難い。
いずれにしても、携帯電話会社やその販売店の価格設定を問題として捉え、これらに介入することは、いくつかの困難を伴う(つづく)。
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