やや不思議な経緯で姿を消した乗換え顧客に対するスマートフォン端末の「極端な値引き」と「高額キャッシュバック(現金還元)」……。周知のとおり、これらが可能になるのは、大手通信事業者が販売店に高額のインセンティブ(販促費)を支払っているからである。
「極端な値引き」にしろ、「高額キャッシュバック」にしろ、魅力的な条件で顧客を誘引する手段に違いない。直感的にこれらの行為を非難するのはやさしい。しかし、こうした手段で顧客を誘引する行為それ自体は、通常の事業活動の一環だといえなくもないし、たとえ「極端な」とか「高額」という修飾語がついたとしても、企業は、自らの商品やサービスを魅力的なものに見せ、または、何らかの経済的利益を付するなどして顧客と取引しようと努力するものだから、これ自体、単純に非難することは難しい。
問題は、どのような場合に、そして、どのような視点から、これらの行為が非難されるべきなのかを明らかにすることが重要である。独占禁止法の解釈と運用は、こうした疑問に対し一定の解答を用意している。
まず、「極端な値引き」について。あまり考えたことはないかもしれないが、「値引き」とは、購入した商品やサービスの対価の減額のことである。一般に、商品やサービスが安く購入できることは消費者にとって望ましいことであるので、問題となるのは、①実際には存在しない高い価格を提示して、その価格から大幅に割引しているかのように見せる場合である。二重価格という不当表示の問題となる。いま一つは、②自らと競争関係にある相手を駆逐するために、戦略的に低価格販売をする場合である。これは、不当廉売とか掠奪的価格設定とか呼ばれている。低価格というのだから、この市場で成立している市場価格を下回っていることはもちろんだが、より確実には、内部補助(企業内で費用を融通する)などして、製造原価や仕入原価を下回ることで、競合他社が対抗不可能な価格設定が行われていなければならない。
となると、携帯電話の取引において、一体何を取引しているのかが問題となる。というのも、製造原価や仕入原価といっても、取引の対象が一体なんなのかを確定しなければ、そもそも原価も定まらないからである。とくに、携帯電話の取引はスマートフォン端末だけを取引しているわけではなさそうだ。2年間に及ぶ「縛り」を条件とすることにより、通信サービスも合わせて取引しているように見える(つづく)。
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