2007年4月13日金曜日

硬骨漢の「みやげ」---木村屋總本店のあんバター

昨日、友人のO氏が今回の人事異動で勤務地が変わり、転勤先である京都に無事着任したことの知らせが届いた。彼にはここ一年余り会っていないが、これまで銀座が彼の勤務地であったこともあり、同じく近くに勤めるI氏とともに、しばしば顔を合わせていた。さして重要な話があるわけではない。仕事や家族のことなどあれこれ話すだけである。ただ、二人とは年齢や家族構成も近く話が合った。
多忙な三人がそろうのは、いつも午後十時をまわってから。彼らの仕事が終わる時間だ。終電までのほんのわずか、気のおけない友との気楽で快適な時間をすごしていた。
ある日、I氏とともに先に酒杯を傾けているときである。いつものように午後十時をすぎたころ、O氏は息を切らして店に入ってきた。" かけつけの一杯"でビールを呷ると、何やらゴソゴソと手にしていた袋をのぞき、「たいしたものではないのだが......」と言って、木村屋總本店の文字が入ったその袋から丸々としたパンを一つ取り出した。わたしが見るところ、O氏は食通振ったりグルメを気取るタイプの人間では全くない。むしろ、その対局にあるともいえる硬骨漢である。その彼が、である。パンなぞを---しかも、よく見ると餡が入っているパンをである---「みやげ」と称して持ってきたのだから、一同(といっても二人)彼の行動を訝しがっても不思議ではあるまい。
そんな二人を察してか、O氏はたたみかけるようにその「みやげ」のあんぱんの説明を始めた。聞けば、木村屋總本店とは仕事上の付き合いがあるらしく、点在する工場がどこにあり何を作っているだの、今日の「みやげ」は銀座本店の上層階にある工場で作っているだの、なかなか詳しい。
件のあんぱんは木村屋定番のそれとは違い、少しだけ大ぶりだ。「あんバター」というらしい。つぶあんとホイップされたバターが柔らかめのフランスパンの生地の中に入っている、新しいあんぱんのかたち。粒あんの歯ごたえが無ければもの足りないし、単なるバターでは少々重い。多少引っ張ってもちぎれないパン生地もいい。パン生地はもう少し塩が効いているといいかもしれない。
O氏によれば、彼の細君もお気に入りだと言う。だからであろう。食べ物にちょっとうるさいI氏やわたしにも、自信をもって薦めたのである。
後日、銀座に用があり、夕方六時過ぎごろに銀座・木村屋總本店の前を通りがかった。ふと、あの「みやげ」のことが頭に浮かんだ。早速買い求めようと店内に入ってみたものの、すでに売り切れ。店員によると、早い時間でなくなることもしばしばだという。もっと早くに来ることを勧められた。多忙なO氏もちょっとした暇(いとま)を見つけて木村屋に走ったのであろう。ガタイのいい彼が混み合った店内でパンを物色し、小振りとはいえ一家に三つずつ計九つものあんぱんを抱える姿は何とも微笑ましいではないか。

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