2012年4月9日月曜日

市場への信頼感に関する二つの問い

先月指摘した興味深い、米国における調査機関ピュー研究所による国際的な意識調査(Pew Research Center, 2007)の内容をちょっとのぞいてみよう。「貧富の格差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる」。市場経済のデメリットを前提としたとしても、そのメリットは余りあると考えている人はどのくらいいるかという問いである。資本主義とか市場というものへの信頼に対する最も基本的な問いであろう。もちろん、モノゴトの是非をきいている訳ではない。認識の問題である。この問いに対する答え、日本は主要国の中で最も低い結果となっている。日本は49パーセントであり、他の主要国を見てみると、米国70パーセント、カナダ・スウェーデン71パーセント、イギリス・韓国72パーセント、イタリア73パーセント、中国75パーセント、スペイン65パーセント、ドイツ56パーセント、フランス56パーセント、ロシア53パーセントとなっている。
 アングロサクソン諸国は軒並み高い。大陸ヨーロッパ諸国とロシアは比較的市場に対する信頼が低いといえそうだ。わが国は、その大陸ヨーロッパ諸国や旧社会主義国である中国やロシアよりも市場を信頼していない。  市場経済は優勝劣敗のメカニズムである。したがって、市場競争の中で幸運を手にすることができず脱落する人が生じるのもやむを得ない。しかし、これらの人を放置しておいてよいはずもなく、これに対してはセーフティ・ネット(安全網)を通常政府が用意するとの理解が、講学上は一般的だ。セーフティ・ネットは、サーカスなどの綱渡りや空中ブランコにおいて演技者の安全を守る網(ネット)が語源である。しかし、「猿も木から落ちる」や「弘法も筆の誤り」という諺がある日本では、失敗した時、最悪の事態にならないためのものとして考えがちである。もちろん、それはそれで誤りではない。しかし、セーフティ・ネットにはもっと積極的な意味がある。この網があるために、演技者はよりリスクの高い難しい技に挑戦しようとする。ほとんど失敗をすることがないプロに対して、それなりのコストをかけて安全を図るのは、こうした理由があるのだ。
 二つ目の問い、「自立できない非常に貧しい人たちの面倒を見るのは国の責任である」に対し、日本は59パーセントを示し、半分強程度の同意しか得られていない。これは、先ほどのアングロサクソン諸国や大陸ヨーロッパさらには旧社会主義諸国よりも顕著に低い結果となっている。例えば、カナダ81パーセント、フランス83パーセント、イタリア・スウェーデン・ロシア86パーセント、韓国87パーセント、中国90パーセント、イギリス91パーセント、ドイツ92パーセント、スペイン96パーセント、米国でも70パーセントとなっている。
 この二つの問いへの回答は、一体何を意味しているのだろうか(つづく)