2013年6月10日月曜日

一年余を経て取り上げられた「自民党改憲草案」---「伝統」というもののとらえ方(1)

 安倍政権発足と同時に、にわかに出現した憲法96条の改憲論議は、ここにきてややナリを潜めたようである。しかし、憲法の「改正規定」の見直しという変則的なやり方であるとはいえ、支持率の高い現政権による主張でもあり、憲法改正への具体的な道筋が幾分なりとも明らかにされたということで、しばらくの間、静かだった国会における憲法論議も少しずつ先へと歩みをはじめたようにみえなくもない。
 周知のように、わが国における改憲論議は、戦後一貫して保守の文脈あるいは主導の下で進められてきた。今回もそれは変わらないようだ。
 ちょうどいま東京新聞で、「検証・自民党改憲草案---その先に見えるもの」という連載が進んでいる。タイトルにある「自民党改憲草案」は、昨年(2012年)4月27日に自由民主党により決定・公表されたものである。現行憲法と比較対象が可能なかたちでこの草案を俎上にのせ、これを作った起草委員会に所属する自由民主党の代議士による説明とそれに対する護憲派のコメントを併せて掲載し、検討を進めるというスタイルである。公表後一年以上を経て、今さらながら改めて記事として取り上げられたのは、冒頭のように、にわかに改憲論議に注目が集まったからということであろう。
 この手の企画を東京新聞が取り上げたのは今回が初めてではない。急に高まった永田町での改憲論議を受け、いまから10年ほど前にも同様の試みが行われていた(これは後に東京新聞政治部『いま知りたい日本国憲法』(講談社、2005年)として単行本化されている。内容についてここで触れる紙幅はない)。

 実は、このときから改憲論議において少々気になり、違和感を感ずる点がいくつかあった。そのうちの一つは、必ずしも法的な論点とはいえないのだが、大切な問題のように思われた。その問題とは、憲法草案のなかで明らかにされている「伝統」というもののとらえ方である(つづく)。